会社法
※ 本要約はAIが本章の内容のみをもとに自動生成しています。正確な内容は本文をご確認ください。
第6章 会社法
6.1 事業形態と会社の種類
事業形態と会社の種類
一般的に、シンガポールに事業拠点を設立する場合、進出の目的、事業内容等を考慮して、通常は現地法人、支店、駐在員事務所のいずれかの事業形態を選択することになります。
■シンガポールにおける現地法人の特徴
外国法人がシンガポールに現地法人を設立する場合、その法人はシンガポール法に基づく独立した内国法人として扱われます。すなわち、親会社が外国企業であっても、設立後の会社はシンガポール法上の法人格を有し、権利義務の主体として独立して活動します。
この点は支店(Branch)との大きな違いです。支店は外国法人の延長として登録されるにすぎず、法的責任は原則として本社に直接帰属します。一方、現地法人は独立した有限責任主体であり、株主の責任は原則として出資額に限定されます。
また、許認可制度の運用上、特定のライセンスが内国法人を前提としている場合があり、その点でも現地法人形態は有利に働くことがあります。ただし、金融、保険、通信、教育、医療、人材紹介などの業種では、個別法令に基づく許認可や資本規制が存在します。そのため、会社法上の設立可否と業法上の参入可否は区別して検討する必要があります。
シンガポールにおける会社設立手続は、会計企業規制庁(ACRA)の電子システム(BizFile+)を通じてオンラインで完結します。書類が整っていれば、通常は数営業日以内に設立が完了するなど、日本と比較して迅速かつ簡便である点も特徴です。
現地法人(Private Company Limited by Shares)の主な特徴は以下のとおりです。
- 原則として外国資本100%での設立が可能です。
- 株主の責任は出資額に限定されます(有限責任)。
- 最低1名のシンガポール居住取締役の選任が必要です。
- 設立後6か月以内に会社秘書役(Company Secretary)の選任が必要です。
- 支店・駐在員事務所と比較して収益活動の自由度が高いです。
- 繰越欠損金は原則無期限で繰越可能です(ただし株主50%超の実質的変動および事業継続性要件に留意が必要です)。
ここで重要なのは、「シンガポール国籍保持者の在籍が必要」というわけではない点です。Companies Act上求められているのは「少なくとも1名のシンガポール居住取締役」であり、これは市民(Citizen)または永住権保持者(PR)に限られず、有効な就労ビザ(Employment Pass等)保持者も該当します。
■会社形態
シンガポールの会社形態は、次のように大きく分けて8形態あり、それぞれ係る法律が異なります。また、会社法に基づく形態、支店および駐在員事務所以外の形態はシンガポール独自となります。このような独自の形態で登録する場合、注意点として、シンガポール国籍保持者またはシンガポール永住権保持者の在籍が必要となります。シンガポールにおける現地法人は、会社法(Companies Act)に基づく会社形態に当たります。
・ 会社法に基づく形態
・ 支店(Branch)
・ 駐在員事務所(Representative Office)
・ 個人事業(Sole Proprietorship)
・ パートナーシップ(Partnership)
・ 有限パートナーシップ(Limited Partnership)
・ 有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership)
・ 事業信託法(Business Trust)に基づく形態
さらに、会社法に基づく形態は、下記のように分類されます。
【現地法人(会社法に基づく形態)】
[無限責任会社と有限責任会社]
会社は、会社清算時の株主の出資責任の範囲によって、無限責任会社(Unlimited Company)と 有限責任会社(Limited Liability Company)に分けられます。
無限責任会社は、債権者に対する株主の法的責任範囲の制限がありません。そのため、会社清算の際においても、株主(現在および過去の株主)は債権者に対して会社が有している資産を超えて、自ら無制限の責任を負担しなければなりません。ただし実務上、この形態をとることは稀なケースです。
一方、有限責任会社は、債権者に対する株主の法的責任範囲はその出資額に限定されます。
なお、有限責任会社は一定の例外を除いて、Limited(Ltd.)または、Berhad(Bhd.)がその商号の一部に使用されます。また無限責任会社から有限責任会社、もしくはその逆への変更は可能です。
[有限責任保証会社と有限責任株式会社]
有限責任会社は、有限責任保証会社と有限責任株式会社に分類されます。
有限責任保証会社とは、保証者が自ら責任を負う範囲を決定する形態であり、保証する金額の範囲は、あらかじめ会社の定款(Constitution)によって決定されます。この形態で設立を行う企業は、公共性の高い慈善事業や布教活動等、非営利活動を行う企業が多くなっています。
有限責任株式会社とは、日本の株式会社 とほぼ同様の形態で、法的責任は保有株式の未払額に限定されます。有限責任株式会社は株主に株式を発行し、その払込額を運転資本として調達することができるため、シンガポールでは最も一般的な進出形態です。
[公開会社と非公開会社]
有限責任株式会社は、その定款(Constitution)の内容に応じて、公開会社(Public Company)または非公開会社(Private Company)に分類されます。会社法第18条第1項に基づき、①株式譲渡制限の規定および②株主数の上限規定(50名以下)の双方が定款に含まれている場合には非公開会社とされ、いずれか一方でも欠ける場合には公開会社として扱われます。
株式譲渡制限
非公開会社と認められるためには、株式の譲渡に一定の制限を設ける必要があります。制限の具体的な形式について法律上の厳格な様式は定められていませんが、実務上は主に以下のいずれかの方式が採用されています。
取締役会の承認がなければ株式譲渡を行うことができないとする方式
株式を譲渡する場合に、既存株主に対して先買権(Pre-emptive Rights:優先して株式を購入する権利)を付与する方式
このような規定を設ける趣旨は、株主構成の安定性を確保し、望ましくない第三者が会社の支配権に影響を及ぼすことを防ぐ点にあります。とりわけジョイントベンチャー形態や少数株主が存在する場合には、株式譲渡制限条項は実務上きわめて重要な役割を果たします。
株主数(50名以下の制限)
非公開会社では、株主数を50名以下に制限する必要があります。この人数算定にあたっては、いくつかの特則があります。
まず、共同株主保有者は1名として数えられます。また、会社またはその子会社の現在の従業員および元従業員であって在職中に株主となった者は、株主数の計算から除外されます。これは従業員持株制度などを想定した制度設計であり、資本参加を促進する趣旨によるものです。
このように、非公開会社の株主数制限は形式的な数字のみならず、実質的な株主構成の安定性を考慮した制度となっています。
非公開会社から公開会社、もしくはその逆への変更は可能です。この場合、株主総会による特別決議が必要となります(31条1~2項)。
[免除非公開会社と非免除非公開会社]
非公開会社は、免除非公開会社と非免除非公開会社に分類されます。
免除非公開会社とは、非公開会社のうち、株主に法人がいないことに加え、株主数が20名以下となっている会社を指します(4条1項)。すなわち、すべての株主が自然人で構成され、比較的小規模な資本構成となっている会社です。
免除非公開会社には、一定の財務報告義務の簡素化などの実務上のメリットがあります。そのため、創業初期段階の企業やオーナー経営型の会社に多く見られる形態です。一方で、法人株主が1社でも存在する場合には免除非公開会社には該当せず、通常の非公開会社として扱われます。
■現地法人の活動範囲とその制限
現地法人は、定款で事業目的を制限しない限り、活動内容に制約を課されることはありません。そのため、支店や駐在員事務所など他の進出形態と比べて、最も自由な活動を行うことができます。
ただし、特定の業種については別途ライセンスの取得が必要です。
6.2 シンガポールの会社法
概要
■シンガポールの法制度
現在のシンガポールは判例法(以下、コモン・ロー)により独自の法を制定しています。ただし過去は英国法に基づくコモン・ローを基礎としていました。
ここでコモン・ローとは、幾多の判例が積み上げた合意を基盤として成り立っている法制度を指します。すなわち、あえて詳細を制定することはせず、一般常識や慣習をもとに裁判所が判断した結果が周知の法律として認識されるような仕組みです。
シンガポールにおいては、コモン・ローの方法以外に法源となり得る重要な要素として、成文法が挙げられます。
この成文法は、大きく分けて法律と従属立法により構成されています。
[法律]
法律とはシンガポール国会によって制定された法律に加え、イギリス議会等、過去シンガポールに対する立法権を有した機関によって制定された法律も含まれます。これらの機関によって制定された法律は、廃止されない限り、現在においても効力は続きます。
[従属立法]
従属立法は、直接国会によって制定される類の法律ではなく、大臣その他の行政に関する機関によって、法律の授権またはその他の適法な授権に基づき制定される法を指します。
現在効力を有する代表的な従属立法としては「シンガポール共和国従属立法」が有名です。
シンガポールの会社法はCompanies Actと呼ばれ、1965年にマレーシアから分離独立した後、1967年に成立しました(Companies Act 1967)。その後1~2年おきに改正されています。
外国企業がシンガポールにおいて会社を設立、運用する場合には、シンガポール会社法の適用を受けます。その他、会社の機関、倒産、担保、上場などについても規定されています。
会社の機関
シンガポールに進出する企業は有限責任会社かつ非公開での現地法人の設立が多く見受けられます。そのため、ここでは非公開会社の機関設計について説明していきます。
シンガポールと日本の機関設計における最大の相違点は監査役・監査役会制度の有無にあります。すなわち日本においては、一定の株式会社に対して、株主・債権者保護の観点から取締役の職務執行を監査・監督するために監査役・監査役会の設置が要求されます。一方、シンガポールにおいては当該設置が要求されません。その他、シンガポール・日本の基本的な機関設計の相違点については以下のとおりです。
株主・ 株主総会
■株主数
シンガポールにおいても日本と同様、株主は1名以上です。
■株主の権利
シンガポール会社法においても日本と同様に多数派株主・取締役により少数株主が不測の損害を被ることがないよう、各種少数株主権が認められています。
事前にその利益を保護するための権利として、定款の写しの請求権(会社法40条)、株主名簿や取締役会議事録、決算関係書類等の閲覧請求権などを有しています。
さらに株主は、これらの権利を行使して情報を入手した結果、問題が発見された場合には株主総会に議題を提案することができ(183条)、取締役・会社の不適切な意思決定を事前に防止・是正することが可能です。
また、事後的にその利益を保護するために、不公正な取扱についての裁判所への提訴権(216条)、裁判所に対する解散請求権(254条)、代表訴訟(216条)等が認められています。
これらの権利行使により、少数株主は事後的にその受けた損失を回避することが可能です。
■株主総会
年1回開催する取締役会で株主総会の日程と決議事項を決定します。初年度の株主総会は、シンガポールの会社法で会社設立後18か月以内に開催することが規定されており、2回目以降からは前年度の株主総会から15か月以内に開催しなければなりません。
また、株主総会における普通決議は、出席した株主の議決権の過半数、特別決議の場合は出席した株主の議決権の4分の3以上で決議されます。
■株主総会の種類
株主総会は株主により構成され、定時株主総会と臨時株主総会に分けることができます。
定時株主総会では決算書の承認や配当の決定など、法定の決議事項が定まっています(その他の決議も可能)。
これに対して臨時株主総会では、重要な資産の譲渡や合併等、臨時に発生する重要な事項をその決議の対象としています。
さらに、株主総会に類似する会議体として、創立総会があります。
創立総会は発起人により構成され、会社の設立に当たっての基本事項(株式の割当等)について決議 します。
■開催場所
株主総会の開催場所についてはシンガポールの会社法上での定めがないため、日本と同様に定款で定め、招集通知に当該開催場所を記載することが一般的と考えられます。
■招集権者と招集通知
招集権者等についてシンガポールと日本の比較表を次に示します。
上記のように、期限以外については原則として両国の相違はありません。
すなわち、両国とも株主総会の招集は取締役が行い、一定以上の議決権を持つ株主が取締役に対して、株主総会を招集することを要求できる点も共通しています(176条、177条)。他方、招集の例外として、日本においては裁判所の許可のもと、株主による株主総会の招集が認められています(296条3項、297条4項)。
招集通知の期限についてはシンガポール会社法の方が日本の会社法よりも、株主の保護を図っていると考えられます。すなわち公開・非公開会社とも通知の期限が日本より1週間早く規定されているため、それだけ株主は株主総会に対する準備と出席の機会を確保することができるようになり、結果として株主の権利を厚く保護しているものといえます。
通知についても両国原則として書面での通知が求められており、例外として電子データによる通知が可能という点でも日本と共通しています(387条)。
他方で、シンガポールにおいては会社秘書役制度を採用していることから、招集通知の作成・発送は会社秘書役が行うため、この点は日本と相違することになります。
■株主総会の議長
株主総会の議長の権限等についてシンガポールと日本の比較表を下に示します。
上記につき、シンガポール会社法においては明確に規定されていませんが、その制度の趣旨から両国とも、原則として相違はありません。
選任方法については、多数決を意思決定の原則とする会議体の趣旨から、株主総会の決議によるものと考えられます。
また、定款によって議長を決定できるほか、その選任方法のみを定めることも可能です。
議長の権限については、会議体の秩序を維持するために必要な権限が与えられています。具体的には、日本において議長には株主総会の秩序を乱す者を退場させる権限が付与されています(日本国会社法第315条第2項)。当該権限により総会屋等、株主総会の運営を不当に妨害する者を排除することができ、結果として株主総会の適切な運営を担保することが可能です。
また、議長となる資格についてですが、株主である必要はないと解釈するのが一般的です。現実には定款により当該会社の社長が議長として規定されていることがほとんどです。他方、日本おいて少数派株主により招集された株主総会では、たとえ定款で議長が定められていたとしても、少数派株主の保護という観点から、再度議長を選任する必要があるとの考え方もあります。
■株主総会の決議
シンガポール会社法上、株主総会の決議には普通決議と特別決議の 2種類があります。日本では上記に加え、特殊決議が存在します。
普通決議とは通常の決議事項について行われる決議方法であり、特別決議は会社の重要な事項(合併等)について適用される決議方法で す。そのため両者は決議内容・定足数・成立要件の面で異なります。
[定足数]
両決議方法とも、定足数について附属定款等で特段の定めを設けていない場合には2名以上の株主の出席が必要になります。通常は、普通決議よりも特別決議の定足数を多く設定することで、容易に決議が成立することを防止します。
[議決権]
議決権についても、日本と同様に1株1議決権の原則を採用しています。
さらに議決権のない株式の発行が認められている点も、日本と同様です。
また、議決権のない株式は、株主総会決議の成立要件として規定されている 「出席した株主の議決権」に含まれない点に注意が必要です。
取締役・取締役会
■取締役の人数
シンガポール会社法上、1名以上の取締役(少なくとも1名はシンガポール居住者)が必要とされています。さらに当該取締役の要件として、18歳以上の自然人であることが必要です。なお、かつて公開会社等に存在した「70歳以上の就任制限(旧153条)」は2015年の会社法改正で撤廃されており、2026年現在は取締役就任に年齢の上限はありません。また取締役は会社の重要な機関であることから、下記の要件に該当する場合にはその就任が禁止されています。
• 破産者
• 裁判所から不適格命令を受けた者
• 詐欺または不正行為により有罪判決を受けた者
• 会社法上の登記義務に関する違反を繰り返している者
■取締役の選任・解任
会社法上の定めはなく、一般的に実務上は定款(附属定款含む)により、 当該選任・解任の方法等を規定する場合が多くなっています。
ただし公開会社の場合には定款の記載にかかわらず、任期前であっても株主総会の普通決議で解任することが可能です(15 2条)。
■取締役の任期
選任・解任と同じく、会社法上の定めはなく、定款の定めによることが一般的です。
■取締役会
会社法上、取締役会の開催回数を直接定めた規定はありませんが、実務上は決算の承認や定時株主総会(AGM)の招集等のため、少なくとも年1回は取締役会を開催する必要があります。取締役会の招集方法等についてシンガポール会社法に定めがないため、一般的には会社定款で、取締役会の招集方法および取締役会の定足数を規定します。
また、取締役会には非法定ガイドラインにより、一般原則が定められています。詳細は以下のとおりです。
・ 会社の利益のために誠実な行動をしなければならない
・ 適切な目的のため、株主全体の利益のためにその権限を行使しなければならない
・ 適切な場合を除き、その権限を他人に委託してはならない
・ 注意を払い、能力を発揮し、および努力しなければならない
・ 個人と会社との利益の競合を避けなければならない
・ 法律に遵守して行う場合を除き、利害関係のある取引を行ってはならない
・ 地位を利用して利益を得てはならない
・ 会社の財産または情報を不正に使用してはならない
・ 地位を利用し、第三者からの個人的な利得を受領してはならない
・ 会社の基本定款および会社定款を遵守しなければならない
・ 適切な会計帳簿をつけなければならない
その他の機関
■会計監査人
シンガポールにおいて上場会社は会計監査人を設置する必要があります(201条)。
その選任については、取締役会により会社設立後3か月以内に行われなければなりません。ただし、休眠会社等として認められる場合には、実質的に会計監査人による監査が不要となることから、例外的にその選任が免除されることがあります(205条)。
■監査役・監査役会
シンガポールでは前述のように、監査役・監査役会を制度として設けていません。
そのため、取締役の監督機能は株主や外部監査制度によって担保される構造となっています。
株式
■優先株式
優先株式とは、普通株式に比べて配当・残余財産の分配について優先的な扱いを受けることができる株式のことを指します(75条)。これは日本における種類株式に相当する株式であり、日本同様その発行には当該株式の内容を定款へ記載することが必要となります。
下記がその場合の定款記載事項の概要になります。
・ 累積的優先株か否か
・ 配当の支払、残余財産の分配、それぞれの優先権の有無
・ 議決権の有無
ここで累積的優先株とは、ある年度の配当額が優先配当額に達しない場合に、当該不足額が次年度以降に累積される優先株のことを指します(次年度以降に累積されない優先株は非累積的優先株といいます)。
基本的に優先株式は議決権が制限されています。これは会社の経営に関心のない潜在的株主からの資金調達を容易にするためです。
配当のみに関心のある株主は多くの金銭的リターンを会社に対して要求します。そのため、通常の株式が持つ議決権は彼らには不要となります。
そこでイメージとしては、本来の株式が持つ「議決権」を制限することで、その議決権の価値に相当する分だけ、受取ることのできる配当を増加させるのです。
そうすることで、会社の経営に興味のない潜在的株主からの資金調達を容易にすることが可能になります。さらに会社としても、資金調達に伴う経営の不安定化を防ぐことができるといったメリットもあります。
■自己株式
シンガポールにおいては原則として自己株式および持株会社の株式の取得は禁止されていますが、一定の厳格な要件を満たした場合(自己株式取得:Share Buyback等)に限り、例外的に後述の方法による取得が認められています (21条、76条)。
他方、日本においては原則として自己株式の取得は許容されています 。
そもそも自己株式の取得を自由に認めてしまうと、下記のような弊害が生じる恐れがあります。
[自由な自己株式の取得による弊害]
・ 資本維持の原則に反する(資本の払戻しにより財産的基盤が弱くなる)
・ 株主平等原則に反する(特定の株主との取引によった場合の価格の妥当性や売却の機会の有無)
・ 会社支配や、株式取引の公正を害する(特定の株主との取引によった場合の持株比率の変動等や株価 操作等)
このような弊害を防ぐために、各種の規制が設けられています。
このように取得が原則として認められているか否かが相違しているのみで、取得手続にかかる規制が存在することは共通しています。
手続規制
シンガポールにおいて認められている自己株式の取得は以下のとおりです。
・ 優先的買取り請求権付株式の取得(70条)
・ 株主総会で承認された方法での取得(76C条)
・ 株主総会特別決議で承認された合意書に基づく市場外からの取得(非上場会社76D条)
・ 株主総会特別決議で承認された契約書(不確定売買契約書)に基づく取得(76DA条)
・ 自己株式の取得が株主総会普通決議で承認されている場合の市場からの取得(上場会社76E条)
・ 裁判所の命令に基づく取得(216条)
自己株式を取得するには上記の手続等に加えて、附属定款に自己株式を取得できる旨の記載をすることが必要です。
財源規制
自己株式の取得は上述のように資本維持の原則に反することになります。そこで、会社財産を確保するために、各種規制が設けられています。
シンガポールにおいては、自己株式の取得資金は債務超過にならない範囲での金額とされています(76C条等)。
他方、日本においても基本的には同様で、自己株式取得の財源は分配可能額の枠内とされています(461条等)。
取締役の責任
債務超過になることを知りながら自己株式取得の許可をした取締役は、10万Sドル未満の罰金もしくは3年以下の禁固に処されることになります(76条)。
他方、日本においても自己株式の取得により債務超過が生じた場合には、当該自己株式の買受をした取締役は会社に対し連帯して、当該欠損額につき責任を負います(465条)。
これらの取締役の責任にかかる規定は、自己株式の取得に伴う会社の財産の毀損を事後的に担保させるため、会社財産を維持・確保し債権者等を保護する機能を有しています。また、これらの規定により、取締役による不用意な自己株式の取得を牽制するといった事前的な防止の機能も有していると考えることもできます。
撤退(清算)
会社清算とは会社の資産を現金化し負債の支払に充て、それでも余剰資金があった場合には、株主に分配する手続を行い、通常はその後に解散します。
シンガポールにおける倒産法は大きく分類して個人に対する倒産法と法人に対する倒産法の2種類があります。
ここでは法人に対する倒産法について説明していきます。
【2026年版 追記:根拠法の移行(IRDA)】会社の清算・倒産に関する規定は、2020年7月施行の「倒産・事業再生・解散法(Insolvency, Restructuring and Dissolution Act 2018/IRDA)」へ移行しています。本節で引用する旧会社法254条等の清算事由は、現在はIRDA(裁判所による清算は第125条等)に規定されています。条文番号はIRDAに読み替えのうえご確認ください(第4章の記載と整合)。
法人に対する倒産法における清算の概要は以下のとおりです。
■任意清算
任意清算とは裁判所が関与しない清算のことをいいます。株主による清算とは、すべての会社債務を返済することを前提とした清算手続のことをいい、清算対象会社に支払能力がある場合の清算手続を指します。
他方、債権者による清算とは、債務超過の場合において必要となる清算手続をいい、当該会社に支払能力がない場合の清算手続を指します。すなわち、債務超過の場合には清算手続の影響が債権者の利害に大きな影響を与える可能性があるため、通常の清算とは異なる手続が規定されています。
■裁判所職権清算
裁判所職権清算は、裁判所が関与するという点で上記の任意清算と相違しますが、清算対象会社に支払能力がない場合の清算手続という点では、債権者による清算と共通しています。
さらに、裁判所の管理下による 清算という意味では日本の特別清算とも類似しています。
当該手続は、その申請権限者が債権者等に限定されており、その申請の要因も限定的に規定されています。具体的な当該要因については次のように規定されています(254条)。
・ 会社が特別決議により、裁判所による会社清算を行う旨の意思決定を行った場合
・ 会社が法定の報告書を提出、または法定の株主総会を行うことにより 債務不履行となった場合
・ 会社がその設立後1年以内に営業を開始しない場合、または丸1年以上営業を停止した場合
・ 会社がその債務を弁済できない場合
・ 取締役が他の利害関係者全体の利益のためではなく自らの利益のために行動するなど、他の関係者にとって不公平・不公正と見られる方法で会社に関する行為を行った場合
・ 会社を清算することが公正・公平であると裁判所が考える場合
シンガポール現地法人を撤退させる場合、まず当該会社の財務状況を精査し、支払能力の有無を明確にすることが重要です。支払能力がある場合には株主による任意清算が最も簡便かつ迅速な手続となります。
他方、債務超過や支払不能の状態にある場合には、債権者の関与や裁判所手続が不可避となり、時間・費用ともに増大する可能性があります。また、取締役の責任問題に発展することもあるため、慎重な判断が求められます。
撤退は単なる事業判断ではなく、法的リスク管理の一環でもあります。適切な清算手続を選択し、法令に則って処理することが、将来的な紛争や責任追及を回避するために極めて重要です。